特殊相対論的力学
力学を特殊相対論的に書き下す

特殊相対論的運動方程式
今度はNewton の運動方程式をLorentz 不変な形に書く事を目指す。Maxwell 方程式はあらゆる慣性系で成り立つであろう、ならばMaxwell 方程式はそのままtensor 方程式に書く事が出来るだろう、という考えの下で書き換えられた。しかし、Newton の運動方程式はそうは出来ない。何故ならば、あらゆる慣性系で成立するという前提がないからである。ではどうやって正しい方程式を導けばよいのだろうか?これはLorentz 変換とガリレイ変換の関係を思い起こせばわかる。ガリレイ変換はLorentz 変換の一つの極限としては厳密に正しかった。ということは、Newton の運動方程式もその極限の元では厳密に成立するはずである。それでは具体的に考えていこう。
いま、ある一つの質点が運動している。我々はある慣性系S’ におり、ある時刻t′ = t′0に質点の運動が静止したように見えた(このような慣性系が常に存在することは明らかだろう)。このとき、Newton の運動方程式
は厳密に成立するだろう。つまり、これは特殊相対論的にも厳密に成立する方程式と考えられる。よって、この方程式はtensor 形式に書けるはずである。ただ、Lorentz 変換に対してtensor として振舞うには明らかに成分が足りない。そこで第0 成分として、
を追加する。x′0 = ct′ であるから明らかに成立する式である。さらに、t′ = t′0 ではt′ = τだから、この瞬間の運動方程式は
と書ける。しつこいようだが、この方程式は相対論的にも厳密に成立する。ただ、この時点ではNewton 力学から一歩も踏み出していない。dτ はスカラーだから右辺は反変vectorとして振舞う。このため、左辺も反変vector として振舞わなければならない(これが相対論の要求)。これでtensor 方程式として書けたので、Lorentz 変換によってこれをS 系に移してもやはりtensor 形式を保つ。さらに、S 系から見ると質点は運動しているから(ある一つの時空点で議論している事に注意。S’ 系では、この時空点で運動していないだけ)、運動している質点になりたつ方程式を得られる(つまり、質点が静止して見える特殊な慣性系から一般の慣性系に移った)。よって、特殊相対論的運動方程式は
である。Maxwell 方程式にしてもNewton の運動方程式にしても予測の入り込む余地はほとんどなく、ほぼ一意的に相対論的に書き換えられたことは注目に値する。

Four-force の具体例
例えば、非相対論的には、一様電場E 中で電荷e をもつ粒子は、
の力を受ける。この力が特殊相対論ではどう修正されるのか計算してみよう。やることは特殊相対論的運動方程式を導いた手順と全く一緒である。
ある瞬間に粒子の運動が静止して見えた慣性系をS′ とする。この瞬間に粒子が受ける力は
である。これをLorentz 変換すれば特殊相対論的な力を得ることが出来る。その前にtensor形式で書いておくのが便利だからそうしよう。
i = 1, 2, 3 について
とあらわされるから、この瞬間のS′ 系でfour-force は
とあらわされることになる(きちんと第0 成分は0 になっている)。これをS 系にLorentz変換すれば一般的なfour-force が得られる。
きちんと1 階tensor にかけていることがわかるだろう。これから、
となる。
であるから、
ここでちょっと工夫してもう少しきれいな形に書こう。
であるが、第0 成分は
つまり、
が成立する。さらに、固有時に対しては
が成立するのでこれを
で割ることによって
が得られる。これを用いれば
と書ける。
このように、Newton 力学で力がどうあらわされるかわかれば、それをもとにしてfourforceをつくれる。

Energyについての考察
Newton の運動方程式には第0 成分は存在しない。それでは第0 成分は何を意味しているのだろうか?結論から言えば、第0 成分はenergy の関係式を表す。しかし、実は運動方程式は4 成分全てが独立というわけではなく、一つの関係式があるため、独立なのは3 成分である。運動方程式の第0 成分は
である。固有時に対しては
が成立する。これをτ で微分する事によって
が得られる。運動方程式を用いると
となる。これをf0 について解くと、
となる。これを運動方程式の第0 成分に代入すれば、
左辺は仕事率であるから、これは力学的energy 保存則をあらわしている(ポテンシャルを使う必要はない。Newton 力学の場合も別にポテンシャルが定義されなくても力学的energy 保存則は成立する。)。
を用いて、
と書く事が出来る。E は質点のenergy をあらわす。E = mc2 は質量energy と解釈できるが、そのenergy を取り出せることは自明ではない。この時点では、単に質点の最低energy がmc2 であるという程度の意味しかない。

Energyについての考察
2 粒子A,B からなるsystem C(C 中でA,B が束縛されている場合、このsystem は複合粒子である) を考える。2 粒子A,B の質量はそれぞれmA,mB であるとする。A,B それぞれについて運動方程式を立ててもよいのだが、統一的に、つまりsystem としてまとめて扱えるはずであろう。例えば、一つの丸いボールの挙動について知りたい場合、我々はボールを構成する基本粒子に立ち戻ることなく、一つのsystem として扱い、成功している。しかも、基本粒子とは言っても、現代物理学ではまだ純粋な素粒子を発見した状態であるとはいい難い。つまり、これをsystem として扱えないのは非常に困るのである。
ここではsystem の慣性質量(=重力質量) がどうなるかを考える。非相対論的に考えると、その質量はm = mA + mB で与えられる。相対論ではどうなるだろうか?一つ言える事は、c → ∞で、この結果と一致しなくてはならないということである。
まず、運動方程式から考えてみよう。
これらを足す。
system は一つの質点のように扱えるであろうことから、この方程式を
と書ける事を期待する(τ はsystem の固有時間。つまり、system のしている腕時計の時刻)。ある瞬間、system が静止して見えたとする(system が静止していることは重心の動きで判断できる)。そのとき
と書けると仮定する。つまり、p0 をp0A, p0B でどのように書けるかわかれば(ただ、わかればと言っても、数学的には一意的に定まらない。物理的な考察によって定めなければならない)system の質量がわかることになる。
の第0 成分は
と書ける。つまり、p0 の候補として
が挙げられる。しかし、実はこれは物理的に正しくない。これは非相対論的な場合に極限的にも一致しない。では、どうすればいいのだろうか?
では、もっと単純に考えて、
としてみよう。第0 成分は
となる。これは非相対論的な場合に極限的に一致する。では、運動方程式とは矛盾しないだろうか?
を足せば、
となる。つまり、運動方程式も自然な形に書くことが出来る。p0 = mc より、
であるが、γ>1 より、m>mA +mB である。これは驚くべき結果であるが、この結論が本当に正しいのかは実験によって定められなければならない。そして、実験はここでの考察を支持する結果を出している。つまり、これは質量とenergy が完全に等価である事を意味している。system が静止しているとき
が成立するのだから、例えば、ボールは熱い状態と冷たい状態では熱い状態の方が質量が大きい。これはボールを構成する粒子の運動energy から考えてもいいが、個々の粒子の運動energy は小さいから
と考えられ、
だけ質量が増加することがわかる。これは、熱いボールの方が重力と相互作用しやすいとも言える。同様に、自転した状態と止まった状態では自転した状態の方が質量が大きい。質量がenergy と等価であるという事実は核energy の場合に注目されがちだが、実際は一般のenergy に対しても成立し、それ故、常に身の回りで質量の変化は起こっていると言える。
   
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