特殊相対論的電磁気学
特殊相対性理論と電磁気学は密接に関係している

Maxwell 方程式は本当にLorentz 不変か?
方程式が座標に依らない形に書けることを保証するためには方程式をtensor 量で書かなければならない(座標に依らない形に書けるということは相対性原理を満たすということである)。逆に言えば、tensor 方程式は原理的には座標という概念を使わなくても書く事が出来る(通常は座標を使って方程式を記述する。それが便利だからである。しかし、”保証”があるのとないのとでは大違いである。)。特殊相対性理論では変換はLorentz 変換だから、Lorentz 変換に対してtensor として振舞う量だけでMaxwell 方程式を記述する必要がある。
tensor 方程式を組み立てる前にMaxwell 方程式が本当にLorentz 不変かどうか計算してみよう。Lorentz ゲージで計算するのが楽なのでこれから先、Maxwell 方程式として、Lorentz ゲージ下でのものを使う。Lorentz ゲージ下で、Maxwell 方程式は
これに加えて、電荷保存則
についてLorentz 不変性を言わなくてはならない。
これら全てについて具体的に計算するのは面倒なのでLorentz 条件
について考察してみよう。特殊Lorentz 変換(S’ 系はS 系に対してx 軸方向にv の速度で運動する) では
となるから、
となる。これがLorentz 不変であるためには
でなくてはならないのだから、各項を比較すれば、
とならなければならない。これを解けば、電磁ポテンシャルの変換性
が導かれる。これは明らかに時空点の変換性と一致している。電磁ポテンシャルが座標によって変換することは電磁気学の範疇では出てこない。相対論を考えて初めてこのような結論が得られるのである。
ここでもう一度ガリレイ変換について考える。Maxwell 方程式はガリレイ不変ではないと述べたが、電磁ポテンシャルの変換まで考えることはしなかった。しかし、ガリレイ変換ではそこまで考えてもMaxwell 方程式を不変に保つ事は出来ない。具体的に計算してもすぐにわかる。ガリレイ変換では
が成立するから、Lorentz 条件は
となる。先ほどと同じように、各項を比較する事から、
という変換性を導く事が出来る。ここまではまだ何とかなりそうな雰囲気をかもしだしている。しかし、例えば、
について、上の変換性を用い、計算すると、電荷密度は
と変換しなければならない。もう無理が生じてきている。このようにしてどんどん変換性は求めていけるが、結局途中でつじつまが合わなくなる。さらに、電荷保存則からは
が得られる。これらを
に代入すると、この方程式は不変に保つ事が出来ない。このように、ガリレイ変換では、いくら趣向を凝らしたところでMaxwell 方程式を不変に保つ事は出来ないのである。
Lorentz 変換では上のような困難は生じない。

Maxwell 方程式のtensor 形式への書き換え
をtensor 形式に書き換える。
最初に、微分がtensor 量になることを示す。反変vector の変換性は時空点の微小変化と同じ変換性として定義され、
より、反変vector は
と変換する。共変vector は反変vector との内積をスカラーにすることから定義され、
から、
’ を入れかえて、共変vector の変換性
が得られる。tensor はこれらの積と同じ変換性を持つ量として定義される。それでは、共変ベクトルを微分してみよう。
第二項は0 である。Lorentz 変換は線形変換であるから、2 次以上の微分は0 となるからである。つまり、
となり、2 階の共変tensor である事がわかる。これはLorentz 変換だけを考えたためである。一般相対論では一般座標変換に対する相対性原理を要求するため、第二項が残り、tensor 量とならない。
それではいよいよMaxwell 方程式をtensor 形式に書いていく。(2.6) 式から考える。
とすれば、
と書ける。これが不変であるためにはjμ が反変vector でなければならない。これは明らかなことではない。特殊相対論の要求である。
次は(2.4) 式である。
右辺は先ほどの結果から、反変vector の第0 成分である。このために左辺も反変vectorの第0 成分でなければならない。つまり、? を反変vector の第0 成分であると考えればよい。しかし、これではまだtensor 形式に書けたとは言えない。一般の成分でこの方程式が書けて初めてtensor 方程式と言える。では残りの成分の情報はどこにあるのかと探すと、(2.3) 式がまさにこの形式である事がわかる。そこで、
とし、これが反変vector として振舞うとする事で(2.3),(2.4) 式は
というtensor 方程式に書く事が出来る。本当にこの式がLorentz 変換に対して不変になっているか計算してみる。簡単のため、2 次元で計算する。ν = 0 からは
が得られる。この時点ではx0′,0 = x0′
,1 = 0 の可能性が残されている(一般のA, j で考えるからx をうまく調節して打ち消す事は出来ない。)。ν = 1 からは
が得られる。行列で書くと
となる。左の行列が完全に0 になることはありえない(変換として意味を成さない)。このために右の行列が恒等的に0 でなければならない。よって、
が成立する。確かに方程式の形は不変となっていた。
Lorentz 条件(2.5) 式はここまでの要求から、何も手を加えることなくそのままtensor形式で書ける。
あとは電磁ポテンシャルから電磁場を求める方程式
である。右辺の変換性から考えるしかない。みたところ右辺は2 階tensor の成分のようである。これから、電磁場は2 階tensor の成分として記述できると予想される。その予想が正しい事を示す。まずはそれぞれの式を成分で書き下してみる。
これから、電磁場は2 階のtensor
の成分として書く事が出来るとわかる。反対称tensor であるから自由度は6 であり、余計な自由度はないことがわかる(このtensor 方程式は上の6 つの式と、Aλ,λ ? Aλ,λ = 0をまとめて書いたものである。)。
これでMaxwell 方程式を特殊相対論的に拡張する事が出来た事になる。これで終えてもいいのだが、最後にゲージ変換を用いず、Maxwell 方程式をそのままtensor 方程式に書くことを考える(つまり、電磁ポテンシャルの助けを借りず、あくまで電磁場のみを用いる)。ここまでで得た知識(電磁場が2 階のtensor の成分であらわせるなど) があれば比較的簡単に方程式を導く事が出来る。Maxwell 方程式は
である。電磁場は、電磁場tensor を用いて
と書ける。これを用いると、Maxwell 方程式の最初の式は
と書ける。2 番目の式のx 成分を書くと、
と書ける。y, z 成分も同様にして計算すると、まとめて
と書けることがわかる。3,4 番目の式についても同様に計算する事によって
と書ける。
 
   
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