リーマン幾何学の基礎
一般相対性理論は曲がった空間を扱うため、リーマン幾何学が必要となる。この章で
はそれを簡単に学ぶ。

何故相対論はtensor を使うのか?
リーマン幾何学に入る前に、何故相対論的方程式はtensor で書かれなければならないのかについて述べておく。これは特殊相対論にも言えることである。
例として、曲面上を歩く蟻を考えよう。これを記述するためには曲面上に座標を導入すればいい。しかし、蟻の位置座標の値などは座標系のとり方によって変わる。蟻の運動は座標系のとり方に依らないので、座標系に依らない形で記述できるはずである。そのために使われるのがtensor である。
では、どうやったら座標系に依らない形で記述する事が出来るだろうか?例えば、図のようにA → B → C と運動する場合を考える。位置座標を使って記述しようとすれば、
必ず基準点(原点) が必要であり、基準点のとり方によって記述が変わってしまう。つまり、我々が通常用いる位置座標は使えない。しかし、例えばは明らかに座標系に依らない。これは蟻の運動で言えば、運動曲線の接線vector である。つまり、接線vector のような量を使えば、原理的には座標系に依存しない形で式を書き下す事が出来るはずである。
は明らかににあたる。つまり、反変vector は曲面の接線vector に当たる量である。これから反変vector は相対性原理の表現を可能とする。
また、スカラーは明らかに座標系に依らないから、これも使うことが出来る。
さらに、反変vector からスカラーを作るために共変vector が導入される。しかし、共変vector はこのようにして導入されるだけでなく、スカラー場の微分によっても導入でき、これはスカラーと反変vector によって表されるから、共変vector 単独でも使うことが出来る。
一般のtensor も同様の理由で使うことが出来る。
すなわち、(相対性原理を満たす) 物理法則はtensor で書かれるべきなのである。
原理的にはtensor で書かれた式は座標系に依らない形で書く事ができる。しかし、通常は方程式をtensor で書けた時点で満足する。何故ならば、それは方程式を座標系に依らない形に書けることが可能である事を意味し、それを知るだけで十分だからである。
実際の計算には座標を導入するのが便利なのはいうまでもない。

共変微分
スカラーの微分は共変vector として振舞う。これは計算してみればすぐにわかる。
それでは共変vectorはtensor として振舞うだろうか?計算してみると
となり、第2 項があるために2 階共変tensor としては振舞わない事がわかる。特殊相対性理論ではLorentz 変換(線形変換の一種) のみを考えたために第2 項は0 となり、微分がtensor として振舞ったのである。これは微分量を多用する物理学にとって大変都合が悪い。そこで、微分がtensor として振舞うように微分の再定義が必要となる。
では、何が原因で微分量がtensor として振舞わないのかというと、がtensor でないことが原因である(は共変vector であるが、その微小変化もまた共変vector であるという保証はどこにもない。はちゃんとtensor としてふるまう)。つまり、この部分を修正しなければ微分はtensor とならない。
ここで行っている微分の手続きは異なる位置のvector をそのまま比べることに相当する(つまり、平行移動の概念として空間が平坦なものを使っている。この平行移動の概念では、例えば球面上でvector を平行移動した場合、vector が球面上からはみ出してしまう。)。これは空間が平坦な場合の平行移動をそのまま用いたための結果である。つまり、空間が曲がっている場合は、平行移動の定義自体の変更が必要である(つまり、球面上でvector を平行移動したときにvector がはみ出てしまわないようなもの。)。
り、空間が曲がっている場合は、平行移動の定義自体の変更が必要である(つまり、球面上でvector を平行移動したときにvector がはみ出てしまわないようなもの。)。
それでは、曲がった空間における平行移動を自然な定義に修正しよう。これがvectorの微分をtensor 量とすることにそのまま繋がる。これを考えるためには4 次元の物理空間がより高次のN 次元空間に埋め込まれていると考える必要がある。曲面上にvectorAμ(μ = 1 ? 4) があるとする。曲面はN 次元空間に埋め込まれているのだから、これに対応するN 成分をもつvector(n = 1 ? N) が存在する。このを平行移動すると曲面からはみ出してしまう。そこで、これを曲面上に射影する事によって曲面内におさまるvector をつくる。つまり、を接線・法線vector にわけるのである。

ではの関係を考えよう。N 次元空間の座標軸をとすると、の変換性はの変換性と同じであり、
より、
である。つまり、
である。(2.1) 式から接線の情報のみを取り出したい。そのために
を利用する。を4 次元のvector に変換する。
これを(2.2) 式に代入すれば、はいろいろと変えられることから、
でなければならないことがわかる。(2.1 式に)をかければ
となる。
ここで、この空間におけるメトリックがどう表されるか計算してみよう。をN 次元空間におけるメトリックであるとして(は場所に依らず、一定である。)
であるから、
である。これを用いると、
となる。が平行移動の結果である。これをdx の一次までとると、
となる。とすれば、は平行移動によるの変化を表す。こうして
が得られる。これを曲がった空間での平行移動として採用するのである。
しかし、このままではN 次元空間を引き合いに出さなくてはならず、不便である。これは次のように解決される。
を微分し、足し引きすることによって
が得られる。これを用いれば
となり、N 次元空間を引き合いに出す必要がなくなった。これが共変vector の平行移動公式である。反変vector の平行移動公式は
から導く事が出来る。これを用いると、
となる。
このような平行移動の手続きを用いれば微分はtensor として振舞うようになる。具体的には
となる。反変vector の微分も
とする。この新しい微分の定義を共変微分という。これは微分の定義の拡張であり、平坦な空間の場合には普通の微分に一致する(メトリックの微分は0 となるから第2 項が0となるから)。
一般のtensor の共変微分は
などによって定義する。ただし、このとき積の微分を
と定義する。
共変微分はtensor として振舞うため、相対性原理を満たす物理方程式の微分は共変微分でなくてはならない。

曲率tensor
時空が平坦であるための必要十分条件は曲率tensor
である。曲率tensor の定義は
である。この曲率tensor は共変微分の交換関係からも導くことができる。
これから予想されるように、一般相対論はゲージ理論の一種である。曲率tensor がゲージ場に対応する。

共変微分
測地線は
が停留値をとるような経路の事である。測地線を表す方程式は変分法によって導く事が出来るが、別の方法でも導く事が出来る。
座標がの点をとり、これが一つの軌道に沿って動くものとする。すると、zμ はあるパラメータτ の関数となる(τ = 1 のときこの点、τ = 2 のときあの点、みたいな)。ここで、
とする。各点においての値が定まれば軌道は決まる。このを平行移動によって決めるとき(すなわち、初速を与え、それの平行移動で各点のを決める)、その軌道は測地線となることが知られている。には平行移動公式が成立する事を要求するのだから、
dτ で割って、
あるいは
これが測地線方程式である。
   
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